エネルギー単位の考え方
動物の栄養要求量に適した飼料設計を行ううえで、エネルギーの考え方は重要です。
わが国では、豚の要求量や豚用飼料のエネルギー単位に
可消化養分総量(TDN)や可消化エネルギー(DE)が用いられますが、
近年、アメリカの飼養標準(NRC:Nutrient Requirements of Swine 2012年版)など、
要求量や飼料原料中成分に正味エネルギー(NE)の記載が見られるようになっています。
今回は、養豚用飼料を考える際に
参考となるエネルギー単位についてご紹介します。
可消化エネルギー(DE、Digestible Energy)は、
総エネルギー(GE、Gross Energy)から消化吸収されず排泄された
糞中のエネルギーを差し引くことで得られ、消化試験による測定が容易とされます。
豚用飼料の表示票にはTDN含量(%)が記載されていますが、
TDNは可消化養分総量をさし、消化試験によって
TDN=可消化粗タンパク質+可消化粗脂肪×2.25+可消化可溶無窒素物+可消化粗繊維
の式で得られます(単位は%またはg)。
DEはTDNから推定することができ、
DE(Mcal/kg)=4.41×TDN(%)/100で換算されます。
DEやTDNは消化できるエネルギーを表しますが、
消化吸収されたエネルギーは完全に利用されるわけではありません。
DEから尿やメタンガスとして排出されるエネルギーを差し引いた値は
代謝エネルギー(ME、Metabolizable Energy)とされます。
動物は飼料を摂取すると、咀嚼や嚥下のような採食行動、消化吸収、
吸収した栄養素の代謝などの仕事のために熱量を発生します。
これは熱増加とよばれ、体温維持以外の仕事に用いることができません。
NEはMEから熱増加を差し引くことで求められ、
肉や乳の生産や生命維持のための仕事(基礎代謝)に用いられる、
もっとも具体的なエネルギー区分といえます。
NEの測定には労力や費用がかかるため、複数の飼料原料を用いて測定した
NEと栄養素含量の相関から得られた推定式が用いられます。
例えば、NRC2012年版の原料中NE計算には
Nobletら(1994)の推定式が採用されています。
(単位はNE、DE:kcal/kg乾物、他成分:g/kg乾物)
NE=0.700×DE+(1.61×粗脂肪)+(0.48×デンプン)ー(0.91×粗タンパク質)-(0.87×酸性デタージェント繊維)
粗タンパク質や酸性デタージェント繊維はマイナスとして扱われています。
これは、タンパク質や酸性デタージェント繊維は熱増加、
すなわち余分なエネルギーが脂質やデンプンの摂食時に比べて多いことが理由です。
一例として、とうもろこしと脱皮大豆油かすでDE、NEを比較してみると、
下表のように脱皮大豆粕のDEはトウモロコシに比べ高い一方で、NEは低くなります。
エネルギー要求量や飼料設計にNEを用いる利点は、
動物にエネルギーを過不足なく与えることができることとされます。
わが国ではNEの要求量や飼料原料中含量といった標準的なデータが乏しいこともあり、
NEを用いた飼料設計は一般的ではありませんが、
将来的にはNEを用いることが予想されます。
海外と日本の環境の違いも考慮しながら、
我々もNEの考え方を飼料設計に
反映できるように情報収集や検証を進めています。
文責 総合研究所 開発グループ 吉村 修