検査結果からみた豚疾病の動向
家畜・家禽の生産成績に悪影響を与える要因の一つに疾病の発生があります。
総合研究所 検査グループでは、「システムパック」と呼ばれる、
農場の定期健康診断システムや疾病の原因究明、
畜舎環境の定期検査などを通じ生産性の向上とともに、
健康な畜産物を食卓へお届けするお手伝いをしています。
今回の技術サポートトピックスでは、検査グループに依頼のあった豚疾病の
原因究明目的の検査について、集計結果をご紹介します。
民間の1検査機関のデータではありますが、
農場で日々起こっていることを垣間見ることができるかと思います。
集計の対象は、2013年1月から2016年12月までに
検査グループへ送付された豚の検査依頼のうち、
疾病の原因究明が目的であった1366件としました。
1件の検査依頼の中に複数の検体が含まれるものや、
混合感染を受けているものがあるため、診断数は4年間で1956件でした。
なお、検査は基本的に依頼者から項目のご指定を受けて実施しており、
疾病名の確定に至らなかったものもあります。
疾病名が不明なものは「その他」としました。
まずは2013年から2016年の疾病別の年間診断数をみてみます(図1)。
2016年のデータを基準として左から症例数が多かった疾病順に並べました。
2016年の1年間で最も症例数が多かった疾病は、
前年に引き続きPED(豚流行性下痢)でした。
しかし、症例数は前年に比較すると明らかに減少しています。
また、2016年はその他の疾病についても例年と同等か減少しているようです。
図1
次に、疾病を呼吸器病、衰弱死亡、下痢、萎縮性鼻炎、異常産の
5つに大別した場合の年間の症例数をみてみましょう(図2)。
衰弱死亡は呼吸器病、下痢、異常産以外の症状で衰弱または死亡した症例を指し、
レンサ球菌症やスス病などが含まれます。
2013年は呼吸器病、衰弱死亡、下痢の3つの症例数はほぼ同等でしたが、
2014年以降は下痢の症例数が呼吸器病、衰弱死亡の2~3倍になっています。
下痢の診断が増加した最大の要因はPEDの発生です。
図2
図3は2013年から2016年までの下痢の症例数をそれぞれ月別に数えたものです。
下痢の診断は2014年6月頃から急増しています。
この理由としては、PEDが発生してしばらく経った農場から
沈静化に向けた検査の依頼が増加したことが考えられます。
2015年は下痢の症例数が年間を通して多く、
PEDが引き続き問題となっていたことがうかがえるかと思います。
2016年の後半になってやっと下痢の症例数が
PED流行前の水準に戻りつつあるようです。
図3
さて、最初のグラフに戻って2016年の疾病動向を考えてみます。
PEDについては今までご紹介したデータから
沈静化が進んでいることがわかるかと思います。
PED対策で重要なことは農場内・外バイオセキュリティーレベルの強化です
(農場内での病原体封じ込め、農場外からの病原体侵入防止)。
これはPEDに限らず全ての感染症対策の基本となります。
PEDの大流行を経て、農場の皆様の感染症に対する危機意識は
少なからず向上したのではないでしょうか。
農場内の作業動線を見直したり、畜舎の洗浄や消毒を今まで以上に念入りに行ったり、
外来者のためのルールを設けたり。
そういった積み重ねがPEDだけでなくその他の疾病の制御にもつながり、
症例数の減少に表れているものと考えられます。
ここまで検査グループに蓄積されているデータから、
PEDを中心に豚疾病の動向を考えてきました。
他の疾病に着目すると違った見方ができるかと思いますので、
また次の機会にご紹介したいと思います。
(文責 総合研究所 検査グループ 久保田智江)