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検査の種類と使い分け


私達が所属している総合研究所 検査グループ 病理チーム(以下、病理チーム)では、家畜の感染症に関する検査や肉質のチェックのための検査を受託しています。

今回は、病理チームが行っている検査にはどんな種類があるのか、それらをどう使い分けるのかをご紹介します。


まず、以下の表をご覧ください。
病理チームが行っている検査を種類別に6つに分類し、具体例とその代表的な目的を示しました。
今回はこの中から1.細菌培養検査、2.PCR検査、3.抗体検査について、ご説明したいと思います。

  1. 細菌培養検査
    感染症を引き起こす病原体のうち細菌について、その存在有無や効果的な治療薬を調べる検査です。

    1つ1つの細菌は顕微鏡を使わなければ見ることができませんが、適切な条件と栄養を与えて増殖させることで目に見えるくらいの大きさのコロニー(集落)を形成します。
    1つの細菌が増殖して1つのコロニーができるため、出現したコロニーを調べることで、検査材料中に存在する細菌の種類や数がわかります。
    肺炎や下痢などの感染症を疑う症状が認められたときには、臓器や糞便などを検査材料として、その症状を引き起こした細菌を見つけ出し、有効な抗菌薬を調べることができます。
    また、畜産物(主に卵)やその生産環境(農場やGPセンターなど)にサルモネラなどの特定の細菌がいないことや、その他の細菌による汚染状況を調べることで、畜産物の安全性を確認しています。


    この検査のポイントは「検査材料中に生きた細菌が存在し、検査環境下で増殖すること」です。検査材料中に細菌が存在しない場合や、
    存在していても死んでしまっている場合、条件が合わずに増殖できない場合にはコロニーを得ることができません。
    ですから細菌検査の結果が陰性であったからといって、その菌が病気の原因では無かったと断言することは出来ません。



  2. PCR検査
    検査材料から遺伝子を取り出し、増幅させて検出する検査です。様々な用途がありますが、
    病理チームでは主に検査材料中のウイルスや細菌の遺伝子の存在の有無を調べています。
    生物は必ず遺伝子を保有しています。遺伝子は個体ごとに異なりますが、生物種ごとに固有の部分もあり、その部分を調べることで生物種を特定することができます。
    症状や解剖所見から感染症を引き起こした病原体を推測し、その病原体に固有の遺伝子を検出することで、検査材料中に推測した病原体が存在するかどうかを調べます。
    PCR検査では検査環境下で培養できない細菌やウイルスでも、その遺伝子さえあれば検出することができます。


    この検査のポイントは「遺伝子の検出にその病原体の生死は問わないこと」です。
    検査材料中から病原体の遺伝子が検出されても、その病原体が増殖力や感染力を保持しているかどうかはわかりません。
    ある細菌について培養検査とPCR検査を同時に行った場合、その結果は必ずしも一致しない場合もあるのです。



  3. 抗体検査
    家畜の血液や体液中に存在する、特定の病原体に対する抗体を検出する検査です。
    細菌培養検査やPCR検査では病原体そのものについて検査を行っていますが、この検査が調べているのは家畜側の反応です。

    病原体の感染やワクチン接種を受けると、その病原体に特化した抗体が体内で作られます。
    抗体は初回の感染やワクチン接種後、1~2週間程で検出可能となり、再び同じ病原体の暴露を受けると直ちに反応して病原体に対抗します。
    また、一度産生された抗体はその後、再び感染を受けなくても数ヶ月から数年間は検出可能です。
    これを利用して特定の病原体に対する抗体を家畜が保有しているかどうかを調べることで、その病原体の感染またはワクチン接種歴の有無を知ることができます。


    この検査のポイントは「感染時期と抗体が検出可能となる時期には時間差があること」です。
    前述の通り、ある病原体の初回感染後すぐにその病原体に対する抗体を調べても検出することはできません。
    抗体検査で感染症の原因を調べる場合には、感染直後に採材した検査材料と、2週間以上経過した後に採材した検査材料の抗体価(抗体の量)を比較し、有意な上昇があることを確認する必要があります。

以上のようにそれぞれの検査にはできること、できないことがあります。
検査方法の特徴を理解し、目的に応じて使い分け、時には複数の検査を組み合わせることで、より有益な情報を得ることができます。
農場内の疾病制御や安全な畜産物の生産のために検査を効果的にご活用ください。

総合研究所 検査グループ 久保田智江

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