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鶏卵保管中の卵白の品質変化


卵白は、主に水分(約88%)とタンパク質(約10%)で構成され、濃厚卵白、内水様卵白、外水様卵白に大別されます。濃厚卵白は粘度の高いゲル状の性質を有していますが、卵黄を覆う内水様卵白と卵殻と接する外水様卵白には粘性はほとんどありません。時間の経過とともに卵白中の炭酸ガスが散逸し、pHが上昇することで、濃厚卵白のタンパク質(オボムシン)の構造が変化し、粘性の低い水様卵白へと変化して卵黄を卵の中央に保持できなくなります。更に、濃厚卵白と内水様卵白からは卵黄に水分が移行し、外水様卵白からは卵殻を通した水分の蒸発が進行します。

卵白pHは卵白の熱凝固性に影響を及ぼします。ゆで卵にした場合、卵白pHが低い場合は表面に艶がなく弾力のない脆いゲルとなり、卵白pHが高い場合は表面が滑らかで弾力に富んだゲルとなります。つまり、鮮度の良い卵では卵白がもろくて殻も剥がれにくく、古くなるに従って剥きやすくなります。一方で、殻を剥きやすくするために鮮度を低下させすぎて、必要以上に卵白pHを上げてしまうと他の弊害が生じます。まず、卵白と接触する卵黄表面に硫化黒変が発生しやすくなります。卵白pHが高いほど、加熱時にシスチンやメチオニンなどの含流アミノ酸からの硫化水素の発生量が多くなり、その硫化水素が卵黄中の鉄イオンと反応して硫化鉄となるからです。また、鮮度低下に伴って濃厚卵白が減少し、水様卵白が増加して卵黄を卵の中心に保持することができなくなり、卵黄が偏ったゆで卵になってしまいます。更には、保管期間が長くなると卵白の水分が蒸発することにより気室が大きくなり、ゆで卵の鈍端部分に大きな窪みが発生します。殻の剥きやすさだけに着目して鮮度を落とすと、硫化黒変や卵黄の偏芯、気室の増大といったデメリットが発生してしまいます。

鶏卵を産卵後に4℃と17℃で0~14日間保管した場合の卵白質の変化を比較しました。4℃と17℃では、ハウユニット、卵白pH、卵白Brixに差が認められます。ハウユニットは鶏卵の鮮度を表す指標の一つで、卵重と濃厚卵白の高さから求められます。卵白Brixは卵白中に溶けている固形分濃度のことで、卵白Brixが高いほど加熱により固く凝固します。

・ハウユニット:時間の経過とともに低下。4℃では14日後でもハウユニットは75以上を維持していたのに対し、17℃では7日後にはハウユニットは75以下になっています。

図1.png


・卵白pH:時間の経過とともに上昇。4℃と17℃では翌日から差が認められ、14日後も差がついたままです。

図2.png


・卵白Brix:時間の経過とともに上昇。卵白水分が減少することで、固形分濃度が上昇していると考えられます。17℃は4℃に比べて高い値で推移しており、卵白水分の減少が大きいと推察されます。

図3.png


4℃と17℃では産卵翌日から卵質に差が認められており、鶏卵の鮮度を保つためには貯卵温度が重要になります。

総合研究所 開発グループ 井上敬雄

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