牛の赤ちゃんはどこから来るの?
皆さんは、日本で飼育されている牛がどのくらいいるかご存知ですか?
乳用牛では、1993年までは飼養戸数が5万戸、飼養頭数が200万頭を超えていましたが、2017年には飼養戸数16,400戸、飼養頭数132万頭と、減少が続いています。肉用牛は乳用牛と比べると頭数の減り方は緩やかではありますが、飼養戸数は2003年に10万戸を割り2017年には約5万戸に、飼養頭数も一時は300万頭近くいましたが、2017年には約250万頭となっています(図1)。肉用牛のうち、子取り用雌牛の飼養頭数も、1993年の74万頭から減少を続け、2014年には60万頭を切っています。
図1:飼養戸数と頭数の推移 [平成29年畜産統計をもとに作成]
一方で、牛肉の輸出がこの5年で3倍に増えるなど、畜産物の需要は増え続けています。そのため、子牛の価格は高騰し、2012年まで40万円程度だった子牛価格は倍の80万円近くになり、肥育農家をはじめ畜産経営に大きな影響を与えています。このような状況の中で、畜産物を安定して生産するためには、子牛が安定して生産されることが重要となってきます。
そこで今回は、子牛がどうやって生まれてくるのか、牛の繁殖技術について簡単にご紹介します。
牛の繁殖技術として最も一般的なのが、人工授精(AI; Artificial Insemination)です。ストローに詰めて凍結保存された精液を融解し、人工的に雌牛の子宮内に注入する方法で、1970年代から行われています。
続いて80年代には、受精卵(胚)移植(ET; Embryo Transfer)が実用化されました。回収した受精卵を別の雌牛に移植する、いわば代理出産の手法です。過剰排卵処置を施した雌牛に人工授精をして受精卵を回収・移植する体内授精卵移植に始まり、90年代には体外授精卵も実用化されています。
優れた血統の受精卵を大量生産することで効率的に遺伝的改良を進められるほか、乳用牛から和牛を産ませたい場合などにも利用されます。2015年度には、体内授精卵・体外授精卵を合わせた移植頭数は年間10万頭を超え、肉用牛で年間約50万頭という産子数のうち2万頭近くがETにより生まれています。
弊社では、このET技術を使って和牛を効率的に生産するため、和牛繁殖を行うお客様や優れたET技術をもつ獣医師の方々と協力して、和牛の双子生産に取り組んでいます。この取組は、和牛よりも体の大きな交雑種に、和牛の受精卵を2個同時に移植するというものです。
日本飼養標準 乳牛(2017年版)には、雌牛の維持に要する養分量(表1)のほか、分娩前9~4週間、分娩前3週間にそれぞれ加えるべき養分量(表2)が記載されています。乳牛と交雑種との違いはありますが、分娩前3週間には乾物量で1kg以上の差があるなど、単胎の場合と双胎の場合で必要な養分量が大きく異なることがわかります。
表1:成雌牛(乳牛)の維持に要する1日当たりの養分量
[日本飼養標準 乳牛(2017年版)より抜粋]
表2:妊娠末期に維持に加える1日当たりの養分量 [日本飼養標準 乳牛(2017年版)より抜粋]
上記のような指標などを参考にしながら、双子に必要な養分要求量に合わせて飼料を給与するのですが、分娩前の牛はなかなか採食が進まないなど、計算通りにはいかないことも多々あります。手探りの部分もありますが、血液検査による受卵牛の栄養評価や超音波診断装置による妊娠鑑定(単胎/双胎の診断)、生産現場の方々による注意深い観察を続けることで、元気な和牛の双子が次々と誕生しています。早期胚死滅や流産など、まだまだ課題はありますが、新たな和牛生産技術として確立できるよう、日々改善に向け取り組んでおります。
写真:2卵移植により生まれた双子の和牛
技術サポート部 養牛グループ 板橋寛嗣