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《特集》抗菌性物質と薬剤耐性について


~硫酸コリスチンの飼料添加物指定取消し~

1980年以降、人の治療における多剤耐性菌が世界的な問題となっています。日本においても抗菌性物質の家畜への使用による薬剤耐性発現と人の治療に影響を与える可能性について評価が進められている中で、今般、2018年4月以降「硫酸コリスチン」の飼料添加物指定が取消しとなりました。

1.抗菌性物質とは
抗菌性物質は、疾病の治療を目的とした動物用医薬品や飼料中の栄養成分の有効利用を目的とした飼料添加物として家畜の健康を守り、安全な畜産物を安定的に生産するための重要な資材です。しかし、家畜に抗菌性物質を使用すると、薬剤耐性菌が生き残って増えることがあり(薬剤耐性菌が選択される)、抗菌性物質の効きが悪くなる事があります。また、食品などを介して薬剤耐性菌が人に伝播した場合、人の治療のために使用される抗菌性物質が十分に効かない可能性もあります(農林水産省HPより)。

2.抗菌性物質をめぐる世界の情勢
2005年にコーデックス(国際食品規格)委員会は、飼料添加物に関する実施規範「人の健康への悪影響の低減措置が取られていない場合には、動物における成長促進の為の抗菌性物質の使用を段階的に廃止する」を報告しました。その後、2015年WHO総会における世界行動計画の採択およびG7サミット・農業大臣会合においても議題として取り上げられ、日本でも2016年「薬剤耐性アクションプラン」を策定し、人と動物等の保健衛生の一体的な推進「ワンヘルス・アプローチ」を推進する事となりました。

3.国内外諸国の取組み
①EUでは、成長促進目的での使用を2006年に一律禁止。
②米国では、人の医療上重要な抗菌剤の成長促進目的での自主的な使用中止を業界に要請、2017年1月から中止
③日本では、食品安全委員会が、抗菌性物質における人の健康への影響を評価中(図1)

(図1)抗菌性物質が人の健康への及ぼす影響評価
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内閣府/食品安全委員会HPより

4.日本における飼料添加物としての抗菌性物質
国内の飼料工場で製造される配合飼料においては、「飼料および飼料添加物の成分規格等に関する省令」(昭和51年7月省令35号~平成27年12月省令82号)により、抗菌性物質の種類と対象飼料、および添加量が定められています。下記表は、牛用飼料の例となります(表1、2)

(表1)牛用飼料に使用できる飼料添加物(抗菌性物質)の対象飼料と添加量
180328 表1.png

(表2)牛用飼料の給与ステージ内容
180328 表2.png

5.「硫酸コリスチン」指定取消しの背景
コリスチンは、1960~70年代に人の感染症治療薬として使用されてきましたが、副作用の発現頻度が高く、もっぱら家畜の治療薬や飼料添加物として国内外で50年以上使用されてきました。近年、抗生物質が効かない多剤耐性緑膿菌などに対する人用治療薬として再発売されました。日本の食品安全委員会ではコリスチンを「極めて高度に重要」な抗生物質に位置づけ、2017年1月に家畜への使用による薬剤耐性発現と人の治療に影響を与える可能性について評価を行った結果、リスクの程度は「中程度」であり、家畜における継続的な薬剤耐性菌発生状況のモニタリングや慎重な使用の徹底など管理措置が必要であると評価しました(表3)

(表3)飼料添加物における食品安全委員会の評価
180328 表3.png

6.日本における指定取消しへの対応
食品安全委員会の評価を受け、2017年7月に農業資材委員会で指定取消しが決定され(他にバージニアマイシンも取消し)、12月に告示改正および省令改正が行われました。これに伴い、鶏・豚・牛用の配合飼料における添加(表4)中止の対応が、以下のスケジュールにて実施される事になりました(表5)

(表4)硫酸コリスチン添加の対象飼料と添加量(2018年3月現在)
180328 表4.png

(表5)硫酸コリスチン添加中止のスケジュール
180328 表5.png

7.今後について
食品安全委員会によるリスク評価が進んでいくに従い、今後さらなる飼料添加物指定の取消し、またはメーカーからの供給が中止となる状況が想定されます。
また現在、畜産物生産における抗菌剤の慎重使用に関する基本的な考え方として、「家畜での薬剤耐性菌の選択と伝播の抑制」が提唱されています。家畜での抗菌剤の有効性を維持しながら、家畜から人への薬剤耐性菌・薬剤耐性決定因子の伝播を抑え、人の医療に使用する抗菌性物質製剤の有効性も維持していくというものです。
生産者皆様にもこの取組みを意識、実施して頂き、畜産の発展もさることながら、子ども達の明るい未来を創造するための一助となれば幸いと思います。

技術サポート部養牛グループ 岸田昭弘

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