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子豚の事故が減ったと思っていたら...

当検査センターでは、春先と秋口が忙しい時期といえます。日照時間が急激に変化し、気温の日ごとの変化や日較差が大きく家畜が体調を崩しやすい季節だからです。 「ここ最近、事故が増えてきた。原因を調べて欲しい」と多くの検体が持ち込まれます。また、農場の状態があまりよくないこの時期に、当社の農場健康診断システムであるシステムパックを実施し、農場全体の状況を定期的に把握しようという方針で、全国の農場から血液サンプルなどが送られてきます。検査担当者も多くのサンプルを抱え、なんとか早く結果が出せるように計画的に検査するのがこの季節です。

そんな忙しい季節の合間の夏場は例年検体も少なめで、検査センターは少しのんびりとした時期になりますが、今年は例年よりも検体数が少なかったような気がします。サーコウイルスのワクチンで成績が改善した農場が多いからでしょうか? 検体数の減少が農場の問題の減少であれば、私たちとしても嬉しいことです。さて、そんな中で気になった事例について紹介します。

ある養豚場でこの春からサーコウイルスのワクチン接種を開始しました。離乳舎までは調子がよく、子豚舎での事故率がやや高かった農場です。サーコウイルスのワクチン接種の開始に伴い、APP(胸膜肺炎)のワクチンを中止しました。ワクチンプログラムを変更してからしばらくたってお話を伺いに行くと、子豚舎での事故率はかなり改善され、ヒネ豚も目立っていなくなり、子豚の体格が揃って丸々していると高評価でした。これで生産成績は向上するかなとその日は安心したのですが、それから2カ月ほどたった頃、「肥育豚の事故が数日で10頭以上になった」と連絡を受け、早速かけつけました。

その日の数頭の死亡豚はどれも発育良好で、死亡までの様子や剖検所見からもAPPによる事故の疑いが強く、実際に細菌検査ではAPPの1型が分離されました。APPの中でも病原性が強いとされる1型ですが、今回分離された株は感受性の抗生物質が効いたようで、現在は投薬で抑えられている状態です。どこからAPPの1型が侵入したのか、あるいは農場内に潜んでいたのかは定かではありませんが、サーコウイルスのワクチン接種により、事故が減って肉豚舎の飼養密度が高くなったこと、子豚の体格が向上して必要酸素量が増えたこと等がAPP発症の誘因だと考えられます。子豚期の事故が減って発育がよくなり、豚舎が立派な子豚で埋まることは喜ばしいことではありますが、肥育期での事故が増えるとその損失はかなり大きいものです。子豚の事故が減ってきたら、ピッグフローや豚舎構造を改良して密飼いを解消したり、母豚数を減らしたりなどの対応も必要なようです。

(文責 検査センター 鶏尾めぐみ)

総合研究所 検査グループ TEL 0287-37-4501 FAX 0287-37-4514

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