豚サーコウイルス2型って何?(その4)PCV2対策について
PCV2についての4回目は、PCV2対策について述べたいと思います。といっても、現時点でPCV2に対して完全な対策というものは見つかっていません。世界中で試行錯誤の真っ只中といった状況です。ここでは飼育環境からPCV2対策を捉えた「マデック博士の20原則」とワクチン開発の現状について取り上げたいと思います。
1. マデックの20原則とは?
1998年にフランスのマデック博士がPMWSに対処する方法として、飼育環境の改善に着目して、以下の20の原則を守る事を提唱しました。その内容は以下のとおりです。
●マデックの20原則
分娩ステージ
- (1)ロットごとにピット下を洗浄消毒する。(部屋毎のAI/AOの徹底)
- (2)分娩前に母豚を豚体洗浄する。寄生虫対策を必ず行う。
- (3)里子の原則禁止
離乳ステージ
- (4)1豚房当りの頭数は13頭以下。ペンの間仕切りは壁にする。(直接接触防止)
- (5)ピット下の洗浄・消毒、AI/AO
- (6)飼育密度は1・あたり3頭まで(離乳直後)
- (7)エサ箱の広さは子豚1頭当り7cm以上
- (8)空気の質の維持(アンモニア濃度10ppm以下、CO2濃度0.15%以下)
- (9)温度管理の徹底
- (10)ロット間で豚を混ぜない
肥育ステージ
- (11)1豚房の頭数は出来るだけ少なく、ペンの間仕切りは壁にする。
- (12)ピット下の洗浄・消毒、AI/AO
- (13)離乳豚期の豚房と混飼しない。
- (14)ロット間で豚を混ぜない。
- (15)空気の質の維持(アンモニア濃度10ppm以下、CO2濃度0.15%以下)
- (16)温度管理の徹底
その他
- (17)適切なワクチネーションプログラムの立案と実行
- (18)豚舎内の空気の流れ、豚の流れを適切に
- (19)厳格な衛生管理(去勢時、注射時等)
- (20)病豚はできるだけ早く隔離部屋に移動させる。
PMWSやPCVADなどに対して、従来の化学療法的な手法がうまく行かない事はこれまで述べてきたとおりですが、フランスではこの20原則をできるだけたくさん守る事で、PMWSの被害が軽減できているということで、現在では世界中にこの原則が伝えられています。免疫を壊すようなウイルス病対策として、豚の飼育環境面からメスを入れた考え方は斬新でもありますが、良く考えればそのどれをとっても養豚の基本です。初心に帰る意味でも以下の20原則をもう一度チェックしてはいかがでしょうか。
2. ワクチン開発の現状は?
PCV2はウイルスですから、ワクチンの開発も進んでいるようです。ヨーロッパの一部と北米では、既に試験的に農場で使用されているということです。現在開発中のワクチンはいずれも不活化ワクチンで、母豚に接種して移行抗体で子豚を守るタイプと、子豚に直接接種するタイプがあるようです。しかしいずれのワクチンも日本で発売されるとしても、早くても数年後になると考えられます。
以上、4回にわたり最近話題のPCV2について取り上げてきました。特に今回ご紹介したマデックの20原則については、次々と増える豚の疾病に対し、病原体毎に対処するのではなく、病原体があっても発症しないような飼育環境作りが大事であるという教訓だと思います。養豚の原点に立ち返る考え方として私たち自身もしっかりと吟味したいと思っております。(このコーナーの20原則の日本語訳は、先日来日したマデック博士のセミナー資料を基に、矢原の意訳が多少含まれています。マデック博士の正確なニュアンスをお知りになりたい方は、英語版をご参照ください。インターネットで入手できます。)
(文責 検査センター 矢原芳博)
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