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子豚の切歯 ~やるべきかやめるべきか~

分娩舎で子豚が生まれると、去勢、断尾、切歯、鉄剤注射の4処置については、ほとんどの農場が実施していると思います。ところが最近、切歯について、その効果と弊害について様々な意見が交わされるようになってきました。

切歯の目的については、「母豚の乳房を傷つけない」、「子豚同士の闘争による外傷を防ぐ」、「外傷に起因するスス病などの疾病を予防する」等々が教科書にも記載されております。では逆に、歯を切らなかったら上記のような問題が本当に起こるのでしょうか。あるいはこれらの問題の原因は子豚の犬歯にあるのでしょうか。切歯という習慣は、既に米国、ヨーロッパいずれの養豚先進国でも行われなくなっているということです。さらに日本でも、ある大手企業養豚場では過去何年間も切歯を実施していないそうです。これらの国々や企業養豚場では、切歯を行わないことで母豚が痛がり授乳をしなくなった、あるいは子豚の外傷やスス病が増えたという現象は起きていないか、無視できる程度だという事です。

また「歯を切る事で歯肉炎が発生し、子豚が口の中が痛くて授乳できない、あるいは人工乳を食べない、あるいはレンサ球菌症にかかりやすくなっている。」のではないかという疑問も起きつつあります。切歯には通常ニッパを使用することが多く、ニッパで犬歯の先だけを切っていればいいのですが、ともすれば根元から「砕くように」割ってしまっている農場もあるようです。このような切歯の仕方をすれば、歯肉に傷をつけて口腔内の常在細菌により化膿してしまいます。人間でもほんの小さい口内炎一つで痛くてご飯が食べられなくなることを想像すれば、子豚の歯肉炎が母乳や人工乳の摂取に大きな影響を与えるだけでなく、口腔内の傷から感染が始まるといわれているレンサ球菌などの感染症の原因にもなりかねないことは理解できると思います。

このような事が判ってきたわけですが、切歯は今後どのように進めればよいでしょうか。でも急にやめるというのは勇気が要ります。下記の段階を経てはどうでしょう。

  1. まず自農場の子豚の切歯の仕方を再度チェックし、できるだけ先だけを切る。
  2. ニッパを使うのをやめ、ヤスリで犬歯の先端を10回程度こすり先を丸める。
  3. まず1週間分の分娩分の切歯を中止し、問題のある腹だけ後で切歯する。
  4. 問題が無ければそのまま切歯をやめてしまう。

この方法でまったく問題が無いか、あるいは離乳体重が伸びたり、レンサ球菌症の発症率が下がるという効果を得られる農場も少なくないはずです。なお本稿は、「ピッグジャーナル」の本年1月号の特集を参考にまとめました。さらに詳しくお知りになりたい方はそちらをご参照ください。

(文責 検査センター 矢原芳博)

総合研究所 検査グループ TEL 0287-37-4501 FAX 0287-37-4514

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