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こんな突然死もあります

交雑種(F1)肥育農家で、生後10カ月過ぎの牛が3頭ほど立て続けに起立不能となり、数時間のうちに斃死するという事例に出会いました。発熱やその他臨床的な異常を示さず短時間で急死したことから生産者も驚き、関係者の緊急招集が行なわれました。

当該地区では、以前から悪性水腫や壊死性腸炎による斃死が散発していたことから、クロストリジウム感染症5種混合ワクチンを接種しており、また乳頭糞線虫対策としてポアオン製剤の使用も徹底していたことから、突然死のリスクはかなり低減されたものと考えられていただけに、生産者の衝撃は大変なものでした。

上記の各疾病以外にも突然死または急性死を引き起こす代表的なものとして、ヘモフィルス・ソムナス(現在ではHistophilus somni)感染症やビタミンB1欠乏症などがありますが、今回の事例では斃死までの症状や疫学的考察から可能性は低いと判断されました。実際に、斃死した牛の剖検所見や血清抗体検査さらに糞便検査などでは上記疾病の関与を疑わせる結果は得られませんでした。

しかし、関係者の懸命な調査の結果、今回の突然死はボツリヌス症であることが判明しました。
本症はClostridium botulinumの産生する毒素を経口的に摂取することにより発生する疾病であり、ボツリヌス毒素によりコリン作動性神経節および神経筋接合部の興奮伝達を特異的に遮断し、その結果として起立不能や筋肉の弛緩麻痺を引き起こし、斃死に至らせるものです。以前、熊本名産のカラシレンコンによるボツリヌス中毒がヒトで話題になったことがありましたが、牛においてもボツリヌス毒素で汚染されたサイレージや乾草などが原因となって発生することが報告されています。

残念ながらクロストリジウム属の細菌ではありますが、5種混合ワクチンでは予防できませんし、有効な治療法もありません。本菌が増殖しやすい腐敗・変敗動植物が混入した可能性のあるサイレージや乾草、あるいは高水分サイレージの給与を避けることだけが確実な予防法です。

このように、ワクチンや抗生剤の投与だけでは対処出来ない事例はたくさんあります。日常的な餌の管理方法について見直してみましょう! 

(文責 大久保幸弘)

総合研究所 検査グループ TEL 0287-37-4501 FAX 0287-37-4514

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