ワクチンについての基礎知識(その4)
今回は前回の不活化ワクチンと生ワクチン以外のワクチンについてご説明いたします。
1.トキソイドワクチン
病原菌が病気を起こす原因が、その菌が産生する毒素だった場合、菌そのものを接種するのではなく、毒素(トキシン)を弱毒化(トキソイド化)して接種した方が効果的な場合があります。菌を培養液で培養すると、培養液の中に大量の毒素が出てきます。この毒素を抽出、精製してホルマリンなどで不活化すると、病原性はありませんが抗体を作る素(抗原)になります(トキソイド)。これにアジュバントをつけて接種するとトキソイドワクチンになります。日本では萎縮性鼻炎(AR)や胸膜肺炎(APP)に対するワクチンとして発売されています。
2.サブユニットワクチン
病原体に対する免疫を作るためには、病原体全体をワクチンとして用いる必要はありません。むしろ効果的な抗体を作る菌やウイルスの一部分だけを集めてワクチンにしたほうが効率よく抗体を上昇させることができます。また菌自体が膜の中に毒素(内毒素)を持っていてなかなかトキソイド化できない場合は、全菌体ワクチンは非常に副作用が大きくなってしまいます。そこで菌やウイルスの一部のみを集めてワクチンにしたものがサブユニットワクチンです。日本では大腸菌ワクチンが挙げられます。
3.遺伝子組替え体ワクチン
生ワクチンは、通常は培養を何代も繰り返して突然変異で病原性の無くなった株を弱毒生ワクチン株として採用します。しかしこの作業は偶然起きる突然変異を頼りにしており、大変な手間がかかります。弱毒株の作成を遺伝子操作でできれば、非常に簡単に生ワクチンが作れます。更に無毒の菌に別の病原体の特定の蛋白質を大量に作り出させることも遺伝子工学では可能ですので、このようにしてサブユニットワクチンの原料を効率よく得ることができます。
またワクチン株は野外株と何らかの方法で区別できる事が望ましく、そのための目印を「マーカー」と呼んでいます。野外株に無くワクチン株のみが持っている、あるいは野外株にあって、ワクチン株には無い性質を人為的に持たせることができれば、分離した病原体がワクチン株か野外株か区別できるし、抗体価を測定してもワクチンによる抗体か野外感染による抗体価を区別できます。
今日の遺伝子工学的手法では、このような操作は比較的簡単にできますので、ワクチン開発のコストは非常に軽減できます。実際にオーエスキー病のワクチンも遺伝子組み替え体ワクチンです。反面このようなワクチンは自然界での安全性についてより厳しいチェックを受ける事が義務づけられています。
(文責 矢原芳博)
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