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離乳体重を大きくするための飼養管理

日清丸紅飼料(株) 総合研究所 検査グループ 矢原芳博


はじめに

いわゆる「多産系」と呼ばれ、高度に遺伝改良の進んだ繁殖用母豚が日本にも導入され始めたここ数年、養豚場における一母豚当たりの年間離乳頭数は、急激に伸びてきており、欧米の好成績農場に匹敵する、30/母豚/年を達成する農場も特別ではなくなりつつあります。しかし反面、総産子数は伸びたものの、いざ離乳の段階となると伸び幅は僅か、あるいは変化無し、といった農場も少なくありません。
1に、我々が毎年行っているMN-FISベンチマーキングの総産子数と離乳頭数の成績を示しましたが、2008年と2016年の比較において、総産子数の改善幅ほどは、離乳頭数が改善していないことがわかります。せっかくたくさん生まれた子豚たちを、できるだけたくさん、できるだけ大きく育てなければならないのは当たり前の事ですが、それを現状の分娩舎の中で、まだまだできる工夫があるはずです。本稿では、新たに最新の分娩舎を建てなくても、既存の分娩舎の中でできることを、もう一回復習してみたいと思います。


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分割授乳で全ての子豚に初乳を飲ませる
総産子数が増えれば、哺乳豚1頭あたりの生時体重は単純に小さくなります。正時体重を大きくするのは、主に分娩前の母豚へのケアが重要となります。その事は後述するとして、子豚が生まれてきてまず真っ先にさせたいのは初乳の摂取です。初乳には、母豚から受け継ぐ免疫の大部分が含まれていますから、全ての哺乳豚に充分な量の初乳を飲ませる事は哺乳豚管理の必須事項です。

近年の高性能の母豚では、乳房数以上の子豚を生む母豚も珍しくなく、またその中でも生時体重の小さい子豚は、大きな子豚に阻まれて、初乳にありつけないケースもままあります。小さい哺乳豚まで含めて、全ての哺乳豚に初乳を飲ませる工夫の一つが分割授乳です。生後すぐに必要な処理が終わり次第、生まれた子豚を大きい順に半分選んで、これを保温箱あるいはプラスティック製の箱の中に閉じ込め、小さい半分の哺乳豚を母豚の乳房近くに誘導して、初乳を摂取しているところを確認します。

小さい哺乳豚グループが充分初乳を摂取できたら、大きい哺乳豚グループを解放して、自由に初乳を摂取させます。これが分割授乳の基本です。大きいグループを閉じ込めておく時間は最長でも1時間以内としてください。出産直後の哺乳豚は、水分を補給しないとすぐに脱水状態になりますので、分割授乳は1時間が限度です。

分割授乳をしているうちに、他の作業に取り掛かってしまい、それをすっかり忘れて半日放置してしまった、と言う話を聞いたことがありますが、哺乳豚にとっては死活問題です。分割授乳中は、作業者はできるだけその場を離れずに、全ての哺乳豚が初乳を飲めているかを確認してください。

また、初乳の免疫成分が腸管から直接哺乳豚の体内に取り込まれるのは生後24時間以内といわれますが、その通り道は24時間をかけて徐々に閉まっていきますから、生後できるだけ早い時間に分割授乳をしてあげたいものです。さらに、もし労力に余裕があるのなら、生後3日間、同様に分割授乳できれば、小さい哺乳豚への栄養補給の上でも効果が期待できます。

保温箱は、一年中憩いの場
分娩舎は、母豚と哺乳豚という体重差100kgを越える動物が一緒に暮らす空間です。いかに親子といえども、体格差による快適温度帯には大きな差があり、重なり合う部分はありません。つまり母豚と子豚が同時に快適と感じる温度はないわけです。それでは分娩舎の温度管理はどのように行うべきなのでしょうか。
基本的には母豚の快適温度に合わせた管理をすべきでしょう。母豚が暑がって体調を壊して、母乳を出さなくなれば哺乳豚は全滅してしまいます。しかし同時に、同じ豚房内には哺乳豚がいます。この矛盾を解決してくれるのが保温箱です。(写真1)

一般的には保温箱は冬場の舎内温度が低い時期に哺乳豚を暖めるために必要と考えられているかもしれませんが、実は夏場こそ保温箱を有効に活用するチャンスです。夏場は母豚への積極的な送風やドリップクーリングなどにより、できるだけ体感温度を下げてやりたいのですが、風が哺乳豚に当たってしまうと下痢をしてしまうため、充分な母豚対策ができないケースがあります。

こんな時に保温箱があれば、夏でもしっかりと蓋を閉めてヒーターを止め、風が当たらない逃げ場を確保すれば、哺乳豚は箱の中に避難します。そうした上で母豚に遠慮なく送風等で風を当ててあげてください。
この対策は夏場の圧死防止対策にも繋がります。保温箱の中に哺乳豚が入りたがらなかったり、箱の中に糞尿をしてしまうケースもありますが、いずれも箱の中が暑すぎたり、ピット下からのすきま風が舞っていたり、哺乳豚にとって何らかの不快な環境があるはずです。これらを取り除いてやれば、子豚は自分で住み良い環境を選択するはずです。
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写真1 分娩舎に設置する保温箱の例

餌付けは本当に必要か
欧米では、分娩舎の哺乳中に餌付けをしないケースが多いと聞きます。基本的には哺乳期間中の必要な栄養分は母乳から取れるはずであり、分娩舎での母豚への給餌管理を的確に行うことが、哺乳豚の離乳体重を向上させる最も重要なポイントである事は間違いありません。それではなぜ我々が餌付けをお勧めするかと言えば、いくつかの理由があります。

①離乳時に、母乳から人工乳という粉末(あるいは顆粒)形状の飼料に切り替わるショックをできるだけ小さくするために、哺乳中に慣らし給与をしておく事(餌というものを覚えさせる事)、
②特に哺乳子豚数の多い腹において、離乳直前の泌乳量最大時の母豚の負担軽減、
③粉末状の飼料を摂取することで、水を良く飲むトレーニングをする事、
④同様に哺乳子豚が多い腹において、母乳を飲めない子豚の栄養補給、等々です。

上記の目的でもわかりますが、餌付け用飼料の摂取で直接離乳体重を大きくすることが第一の目的ではないので、まずは哺乳豚が「これは餌だ!食べたい!」と気づかせる事が最も重要です。
ですから餌付け用の給餌器は、哺乳豚が良く認識できるように、低めの皿状の形状で、無理なく集まれる場所に、ほんの少しずつ新鮮なものをパラリと撒いて置くようにしてください。

時々、大盛り大サービス!と言わんばかりに山盛りにしている餌付け用飼料に水や尿が掛かって腐敗しているのを見かけることがありますが、これは全くの逆効果になってしまいます。
また餌付けの目的の④にあるように、哺乳期から離乳期への切替時期のポイントとして、充分な水を子豚が自分で飲むことを覚えさせることが重要です。このような「水付け」目的のために、ゲル状の人工乳もありますので試してみるのも良いでしょう。

自動哺育装置の有効な活用法
母豚1頭あたり年間30頭離乳も夢ではない時代になってきたわけですが、妊娠期間や哺乳期間を大幅に短縮することは難しいわけで、そのためには、一腹あたりの離乳頭数を増やすしかありません。すでにトップを行く養豚場では、一腹あたり1213頭での離乳を実現しています。母豚の乳頭数も7対から8対揃っているものも増えつつありますが、やはり後ろの方の乳房に関しては徐々に泌乳量が落ちてきますので、純粋に母乳の栄養だけで12頭以上の哺乳豚を充分な離乳体重に育てることは至難の業です。

これを助けるために、いくつかのメーカーから自動哺育装置が発売されています。代用乳や人工乳を暖かい水と一緒に、自動プログラムで飼槽に落とす装置で、発売以来、その細かな使用法が試行錯誤されてきたようです。(写真2)
当初は離乳時に体重が小さく通常の人工乳の給与ではうまく育てられない子豚を集めて、離乳舎で飼い直す方法が一般的だったようですが、その他に分娩舎で哺乳中の子豚のうち、大きい豚を通常の離乳日前に集めて、自動哺育装置で育てることで、残った小さい哺乳豚を充分哺乳させ離乳体重を上げるオプションも有効のようです。

また、特に発育の良い腹については、腹ごと早めに離乳させて自動哺育装置に任せ、その母豚に別の腹の哺乳豚をつけると言う、いわゆる「送り里子」方式を取っている農場もあります。このように自動哺育装置を有効活用している養豚場の方に言わせると、平均で一腹あたり12頭以上の離乳をコンスタントに達成するには、この装置無しには難しい、との事です。
また最近、自動哺育装置に適した代用乳、人工乳も各飼料メーカーから発売されており、農場毎の有効な使用方法は、今後もさらに広がるものと思われます。
写真2 自動哺育装置の例.jpg
写真2 自動哺育装置の例
写真提供:グローバルピッグファーム(株)

健康な哺乳豚は健康な母豚から
ここまで、たくさん生まれた子豚を、いかに多く、いかに大きく離乳させるかについて、哺乳豚の目線で考えてきました。しかし、これらの事は、哺乳豚の最大の栄養源である母乳を産生する母豚が健康である事が大前提です。分娩舎における母豚の管理については、詳しくは他稿に譲りますが、特に見落としがちなポイントを挙げてみたいと思います。

まず、分娩舎に移動された母豚の分娩前の飼料給与量です。分娩後の給与量については、多くの資料があるので、そちらをお読みいただくとして、分娩前の母豚への給与量は意外と盲点です。一部に難産を恐れて、分娩舎での給与量を極端に落としているケースがあります。また分娩予定日の1日前に断餌するケースもあります。
しかし、最近の高能力母豚においては、子宮の中に多数の胎児を抱え、それらが発育する栄養源も母豚が摂取しなくてはなりません。また、このような母豚の妊娠期間は、通常徐々に長くなってきています。

分娩1日前の断餌のつもりが、3日間以上の断餌になってしまっていたと言うケースもありました。分娩前に必要以上に給餌量を下げると、生時体重の減少や白子、虚弱子などの増加の危険性がありますので注意が必要です。
また総産子数の増加は、母豚自身の出産のストレスの増加にも繋がっています。産褥熱の予防のために、分娩前後3日間、解熱剤を投与するなどの積極的な対策も有効です。さらに哺乳豚が下痢を起こしている場合には、子豚への治療と同時に母豚の体調のチェックが必要です。哺乳豚の異常は多くの場合、母豚の体調不良が引き金になっているため、母豚への抗生剤の投与などの治療が必要になります。

まとめ
母豚の繁殖成績の遺伝改良のスピードは、近年どんどん増しており、これらの母豚を日本でも自由に選択できる環境になってきました。このような高性能の母豚の能力は、農場に導入すればそれだけで発揮できるものではなく、逆にうまく飼い切れずに、従来の母豚に切り替えてしまった農場もあると聞いています。

どんな産業においても同じでしょうが、最新の技術を使いこなすためには、その技術にあった使い方ができるよう、使う方にも革新が迫られます。単に新しい設備が必要であるという事ではなく、現状の設備の中で、最新の母豚の能力を引き出す工夫が求められると言うことだと思います。
本稿では、特に目新しいポイントではなく現時点でできる事の中で、増えつつある子豚の数をより多く、より大きく離乳するためのポイントを列挙してみました。農場内の再確認のお役に立てれば幸いです。

「ピッグジャーナル」(アニマル・メディア社発行)2017年9月号掲載

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