自然のエアコン!
日清丸紅飼料(株) 総合研究所 検査グループ 矢原芳博
桜前線が北上中ですが、養豚場の状況はいかがでしょうか。
ここ数回、豚舎内の温度や換気関連の話題を取り上げてきましたが、
先日、換気の方法について、非常に面白い取り組みのお話をお聞きしました。
その方法とは、地下に樹脂製のパイプを100m程度埋設して、
このパイプを通して建物の入気を行うというものです
(もちろん実際の設備は、もう少し付帯設備等があり、もう少し複雑ですが...)
文字で書いてしまうとただこれだけなのですが、
何の目的で建物の中に取り込む空気を地面の下を経由させるかといいますと、
入ってくる空気の温度を安定化させるためです。
つまり、建物の中に、外気と同じ温度の空気を入れると、
夏は暑く、冬は寒くなります(当たり前の話ですみません)。
しかし、土の中の温度は外気温と比較すると、温度変化が少ないので、
この地中の温度を、外気と熱交換しながら入気してやると、
夏は、より涼しい空気が取り込めて、
冬はより暖かい空気が取り込めるというわけです。
言い換えれば自然のエアコンということになります。
このシステムは、積水化学北海道(株)という会社が開発した
「低深度地中熱交換システム(リブクールシステム)」というもので、
すでに人間の住む公共の施設等で実際に施行、稼動しています。
人間の建物の場合には、省エネが大きな目的になるようですが、
エアコンの風が苦手な人にとっては、
優しい涼風が心地よいと評判になっているそうです。
さて、開発した方は、これを畜産に応用できないかと考えており、
すでに数件の野外試験、さらに施行例もあるようですが、
普及にまでは至っておらず、効果を試す実践的な試験を、
様々な気候の場所で行いたいと話しています。
私がこの話を最初に聞いた時、直感的に
「夏場の雄の精液性状の向上や母豚の繁殖障害の改善に有効では?」
と思いました。
また逆に極寒地では、冬場の入気を少しでも暖めることができれば、
光熱費の節約や、舎内の結露の予防にもなり、
こちらも冬場の呼吸器病改善、あるいは母豚の寒さによる
早産や白子増加の予防になるのではないかと期待しています。
もう一つのメリットとして、初期投資は必要ですが
ランニングコストは非常に安いということが挙げられます。
これらの利点を総合すると、このシステムは畜産分野に
非常に効果が大きいのではないかと感じたわけです。
開発者の方々は、畜産分野については門外漢なので、
畜産業界との接点を求めて私の所にお話をしに来てくれたのですが、
上記のように、今後の舎内環境の改善のために、
非常に面白い取り組みだと思いましたので皆様にご紹介してみました。
ご興味のある方がいらっしゃいましたら、
矢原までご連絡頂ければ、取次ぎをさせて頂きます。
「ピッグジャーナル」(アニマル・メディア社発行)2017年4月号掲載