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疾病対策と地域の情報共有

日清丸紅飼料(株) 総合研究所 検査グループ 矢原芳博


当たり前の事かもしれませんが、今年も12月がやってきてしまいました。そして毎年恒例のように、まだあれもできていない、これもできていないと焦っております。ここ数年続いている高豚価の中でも、今年の後半は特段に強い相場が続いており、生産者の方々からは前向きな設備投資計画を聞く機会も多く、心強い年の暮れです。

疾病に立ち向かう姿勢についても、このような前向きな取り組みが日本各地で始まっていると言う情報を聞いています。豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)を中心とした常在性の疾病を、養豚場単独ではなく、地域一体となって取り組もうという動きです。特に、口蹄疫からの再開後の宮崎県児湯郡、新潟県や千葉県の取り組みについては、業界誌にも取り上げられており、各地から期待の目で見守られています。

それぞれの取り組みの段階や規模は様々ですが、いづれの取り組みにも共通しているのは、スタートは生産者からの声出しであり、AD清浄化の際の受け皿になった自衛防疫協議会、地域防疫協議会を核として、これに各県の養豚協会、行政、民間の企業等が参画して業界全体で取り組もうとしている点です。

PRRSに関していえば、地域全体のPRRS清浄化が最終的なゴールなのでしょうが、それはひょっとするとかなり困難な課題かもしれません。ゴールだけを見つめて走り始めると途中で息切れを起こしてしまうかもしれません。

私が感じている、このような取り組みの最もすばらしいメリットは、同じ地域で生産している養豚場がお互いの疾病の状況について情報を共有できるという点です。ご存知の通りPRRSウイルスをはじめとする常在性ウイルスは極めて感染力が強く、養豚密集地域においては、個々の農場がバイオセキュリティを高めても、その外壁を乗り越えて感染拡大できる病原体です。周辺の養豚場の情報は自農場を守る上で重要な情報です。
個々の農場の情報を共有化することで、疾病に対して協力して立ち向かえば、地域の清浄化が達成できる前から、各農場での疾病による経済的損失が軽減されるものと信じています。それこそが地域ぐるみの取り組みの真髄ではないかと思います。

そしてこのような取り組みについて、我々のような検査機関も少なからずお手伝いできる部分があるのではないかと感じています。個々の農場の検査結果に対する守秘義務はもちろん守らなければなりませんが、生産者の皆様が同意した範囲の中で、データをまとめたり、他の地域と比較したりという、データの使い方ができれば同じ1回の検査でも、より利用価値が高まるのではないでしょうか。
「オープンマインド」が手ごわいPRRSに立ち向かうキーワードになるのではないかと期待して2018年を迎えたいと思います。

「ピッグジャーナル」(アニマル・メディア社発行)2017年12月号掲載

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