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豚は寒さでは死なない!?

日清丸紅飼料(株) 総合研究所 検査グループ 矢原芳博


北国では極寒期に入り、北海道では-10℃以下の外気温の中で
養豚生産をされている方々もいらっしゃいます。
豚舎の断熱は良く効いており、
若齢子豚のいる部屋は充分暖房を取れる構造になっている訳ですが、
豚舎間の移動やシャワーインの時など、思わず身構えるほど寒い状況に出くわすと、
日常業務としてこの環境の中で仕事をされていることに頭が下がります。
先日も農場巡回の途中で、集合ピットのスクレーパーが凍って
動かなくなってしまうトラブルに遭遇して、北国の皆さんのご苦労につくづく感じ入りました。

さて、北国の養豚場に入って感じるのは、舎内温度と豚の状態の関係です。
養豚の解説書には必ず、豚の日齢やステージ毎の豚の快適温度帯と言うものが記されており、
各豚舎ではその温度を保持できるような設備を持っているのが原則です。
しかし時折、快適温度帯を大きく下回っている環境なのに、
豚達が呼吸器病も起こさずに発育している豚舎を見かけます。

子豚も寒がって山のように固まっているので、
もっと温度を上げたほうが良いということを農場の方に進言します。
しかし農場の人からは、「豚は寒さでは死なん!」と言い張って、室温を上げてくれません。
もっとも構造に問題があって、それ以上温度が上げられないケースもあります。
しかしその農場に翌月行っても、豚は順調に大きくなっており事故率も低い、というケースです。
逆に舎内温度は充分取れていて、隙間風もない、ファンもちゃんと回っているのに、
呼吸器病がなかなか止まらない、という農場もあります。

もちろんこのケースだけで、「温度管理はどうでも良い」と考えているわけではなく、
やはり豚舎の環境調整は基本ルールを守るべきである事は間違いない事ですが、
では基本ルールさえ満たせば、豚は必ず順調に育つかといわれると、
そうとは限らない、といわざるを得ません。

今、眼前にいる豚が何を欲しているのかを絶えず真剣に追及することが重要なのだと思います。
「豚は寒さでは死なん!」と言い張るおやじさんは、しかし反面、
豚の別の行動を見ながら、それに合わせて管理を行っているのだと思うのですが、
残念ながら本人にもそれを具体的に言葉にすることができないようです。

このあたりは、何年豚に関わってきても、
やはり毎日養豚場で苦労されている皆さんにはかなわない部分です。
何とか言葉にすべく、農場巡回の折に技を盗もうとしておりますが、修行が足りません。

「ピッグジャーナル」(アニマル・メディア社発行)2017年2月号掲載

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