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ダンス病の病原ウイルス発見!

日清丸紅飼料(株)総合研究所 検査グループ 矢原芳博

梅雨明け前から暑い日が続いていますが、豚舎の豚はへばっていないでしょうか。豚価は引き続き高値を維持しているようですが、一部地域で常在化しているPEDの影響なのでしょうか。高豚価は喜ばしいことですが、消費に悪影響が出ないレベルで、できるだけ長く続いてほしいものです。

ところで皆さん、「ダンス病」をご存知でしょうか。分娩直後の哺乳豚が、一腹まとめて、激しく震えて、母乳が飲めずに衰弱して死んでしまう病気です。初産を中心に複数腹まとめて発症したと思ったら、その後ぱったりと発生しなくなるなど、つかみどころのない病気です。なお、母豚にはまったく症状は観察されません。

発症は初産の子豚が圧倒的に多く、初産で発症しなかった母豚で2産目に起きることもありますが、1度発症した母豚は、基本的にその後の分娩で発症する事はありません。また、発症した母豚の、このような事実から、本病が感染症ではないかと考えられていたのですが、では、どのような病原体が原因なのかについて、長い間様々な仮説が提唱されてきました。しかし決定的な候補病原体は見つかっていませんでした。

それが昨年秋に、「アイオワ大学のグループが遂にダンス病の原因ウイルスを捕まえた!」というニュースが入ってきました。それによると、病原体は、ペスチウイルスという属の仲間の新しいウイルスだということです。ペスチウイルスの仲間には、豚コレラウイルスが良く知られていますが、豚コレラウイルスとはまったく別のウイルスだそうです。このような新説の場合、発表者達の実験結果を他のグループが確認して、再現性があるかどうかで確認を取っていくものですが、ニュースが出てから10ヶ月経過した段階で、アイオワ大学のグループ(Arrudaら2016)の他に、ドイツのグループ(Posterら2016)からの論文も発表されていますので、裏付けも固まりつつあると思われます。今後これに沿った対策方法の研究が進むことが期待されます。

今回の原因ウイルス発見の経緯としては、発症哺乳豚の臓器材料を「次世代シークエンサー」という機械にかけて、ペスチウイルスの仲間が引っかかってきたということです。これまでの病原体の検索は、あらかじめ、どのような病原体が考えられるかを予測して、その予測に沿って培養や遺伝子検査を行い、見事に病原体を捕らえるか、外れて残念でした...となるか、一か八かの出たとこ勝負のような探り方でした。しかし、この「次世代シークエンサー」という機械は、検体となった発症豚の臓器の中に入っている遺伝子を片っ端から増やして、増えた遺伝子がどの病原体のものに近いかを自動的に判断してくれるもので、未知の病原体を探る上では、画期的な武器となるものと思われます。遺伝子工学の発達は日進月歩であり、これからも多くの原因不明の疾病の犯人が捕らえられることが期待されます。

「ピッグジャーナル」(アニマル・メディア社発行)2016年07月号掲載

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