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湿度が上がるとスス病が増える

日清丸紅飼料(株)総合研究所 検査グループ 矢原芳博

日一日と暖かくなっておりますが、季節の変化に応じた飼育環境の調整が難しい時期でもあります。3月末から4月始めにかけて北海道の養豚場を巡回させて頂きました。北海道も今年は暖冬傾向であり、残雪は例年に比べて非常に少なく、引っ張り出して履いてきた底のギザギザの冬靴は、ほとんど無用の長物でした。北海道の養豚場さんでお話を聞いたところ、数件の離乳舎でスス病の発生が見られていました。どうも北海道のこの時期の気候がスス病の引き金になっているようです。

スス病は、ご存知のとおりブドウ球菌の一種が病原体である事が知られています。しかしこのブドウ球菌(スタフィロコッカス ハイカス)は、養豚場内の環境中にはどこにでも居る常在菌であることが知られており、実際にスス病が発生するかどうかについては、もうひとつ何かのきっかけが必要になると考えられています。このきっかけのうち、非常に重要なのが豚舎内の湿度です。

呼吸器病は豚舎内の湿度が下がると発生しやすくなりますが、逆に湿度が上がるとスス病が発生しやすくなると言われています。そして離乳舎(あるいは分娩舎)の湿度に大きく関与しているのは豚舎の換気量です。舎内の換気量が下がると、豚舎内の水分が排気される空気と一緒に豚舎外に排出されずに残ってしまい、結果として舎内の湿度が上がってしまいます。特に豚舎内で積極的に保温を行う離乳舎や分娩舎においては、舎内で蒸散する水分も多く、これに見合った換気量を確保しないと湿度が上がりやすくなります。一年のうち、急に気温の下がる秋口、あるいは急に気温が上がる春先には、一日毎の気温差が大きく、冷え過ぎて子豚がヒネてしまう危険を回避するために、換気量を絞りがちです。これらの理由から、北海道の場合、ちょうど3月末ごろ、離乳舎が湿度過多のスス病が発生しやすいと考えられます。このような症状が目立つ場合、もちろん発症豚への治療も必要ですが、子豚に直接あたらないように、舎内換気量を上げてやる必要があります。一日中換気量を増やすのは無理としても、日中の気温の高い時間帯に、15分とか30分とか、時間を限定して断続的にカーテンを開けたりファンを手動でまわしたりして換気を取ってやると、徐々にスス病の発生が減ってくるケースが多いものです。また、積極的に換気できなくても、舎内の空気をミキシングファンで撹拌するだけでもある程度の効果は期待できます。

このような現象は、日本中で起きる可能性があり、地域の気候によってスス病が発生しやすい時期は、少しずつ異なると思いますが、そのような時期にはこの話を思い出して、換気を増やして見てはどうでしょうか。

「ピッグジャーナル」(アニマル・メディア社発行)2016年07月号掲載

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