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新参株のPRRS拡がる

日清丸紅飼料(株)総合研究所 検査グループ 矢原芳博

寒の戻りを繰り返しながらも少しずつ春らしい暖かさに近づいているような気がしますが、皆様の農場はいかがでしょうか。ここの所、PEDにすっかり気をとられていましたが、PRRSについていくつか気になる話が聞こえてきています。過去にこのコーナーでも何回か取り上げましたが、数年前から南九州で、事故率の高いPRRSが発生しているというお話ですが、発生農場から得られたPRRSウイルスの遺伝子を調べるとクラスター4が多いという傾向があります。

PRRSウイルスの遺伝子のタイプは、ウイルスの表面にあるタンパク質の設計図の一部分(これを専門的にはORF5番といいます。)を比べて行う場合が多いのですが、大きく5種類に分かれます。たとえば、現在日本で市販されているワクチンのウイルス株はクラスター2に分類されます。件のクラスター4は、最初日本では発見されず、2008年に始めて報告されています。このクラスター4が2010年以降、徐々に南九州から見つかるようになり、ほぼ同時に南九州でのPRRSによる事故率の高さが話題になりました。今のところクラスター4イコール「強毒株」という根拠が示されているわけではないのですが、疫学的にも注目して行く必要がありそうです。

そしてさらに、このクラスター4が南九州だけでなく、他の地域でも見つかってきており、この広がりについてモニタリングしている最中です。中でも中部地域では、母豚の死亡や流産の集団発生が見られた例が報告されており、お客様からのお問い合わせもいくつか頂いています。

PRRSウイルスは遺伝変異が早く、変異の幅も大きいことで知られており、平素から、現場で流行しているウイルス株の遺伝子の状況を総合的に収集してその傾向を把握することが出来ればよいのですが、これをなかなかひとつの検査機関で行うのは難しい話です。複数の検査機関が持つ遺伝子のデータを持ち寄って、ひとつのデータベースを作ることができないものか、考えているのですが具体化できていません。テレビやネットで気軽に見られる天気予報のように、PRRSウイルスの流行状況を見られるようになれば、これもバイオセキュリティに役立つのではないかと思います。

「ピッグジャーナル」(アニマル・メディア社発行)2016年03月号掲載

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