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PEDの感染循環を断ち切る

日清丸紅飼料(株)総合研究所 検査グループ 矢原芳博

桜の季節も終わり、夏の陽気になる日もあって、毎日の豚舎環境の調整に苦慮されている農場も多いのではないでしょうか。しかし外気温が上昇するという事は、豚の体内から排出されたPEDウイルスが、環境中で生存できる時間が短くなるという事なので、その面ではありがたい季節になってきました。

2013年10月に沖縄での発生が報告されて以来、この5月で1年と7ヵ月が経過しました。農水省のホームページの週毎の新規発生件数のグラフを見ると、昨年9月以降一旦、発生件数0件の週もあったものが、12月以降再び上昇傾向になって3月くらいからまた減少傾向に転じているように見えます。このまま発生農場が減って行ってくれることを期待しています。ただ、私個人的には、今回のPEDの流行終息には3シーズンかかると見ております。その根拠は、18年前のPED流行の時の経験です。あの時は、1シーズン目に大きな流行の山が終わり、その後PEDワクチンも発売となって、ひと冬で終息したような印象が残っていますが、実は、その翌冬も、新たに外部導入した初産豚の子豚を中心に、散発的な発症があったそうで、結局そのような「ぶり返し」が無くなるのに3シーズンかかった、という話を、陽性農場の人から聞いていたからです。

現在の我々のPED対応のテーマは、「茨城県の初発の広がりをどう食い止めるか」と「感染農場でのぶり返しをどう止めるか」の2つに集約されています。このうち特に「感染農場のぶり返し」対策については非常に苦慮しています。もともとPEDウイルスは、①腸管の中でしか増えない、②感染豚に免疫が出来ると、体内のウイルスは比較的短期間で排除される、③環境中に排出されたウイルスは消毒等により短期間で死滅する、という認識で対応してきましたから、「豚群全体が感染後速やかに免疫を持てば、その後数週間のオーダーで農場からウイルスは消えていく」と思い込んでおりましたが、実際には、PEDウイルスは①腸管から血中に入ってウイルス血症を起こす豚もいる、②中和抗体も持った豚(あるいは移行抗体をもらった哺乳豚)でも、暴露されるウイルス量が多いと発症する、③環境中に排出されたウイルスは、予想以上に長期間感染性を維持している、というように認識を改める必要に迫られています。さらに、発症した子豚が排出するウイルス量は非常に大量で、しかも1頭の豚が感染するのに必要なウイルス量が少ない事も相まって、農場内でのPEDウイルスの循環は非常に頑固に、なおかつ長期間持続してしまっています。このウイルス循環を断ち切るためには、かなりの荒療治が必要です。分娩舎発症哺乳豚の発症後即座の淘汰と分娩予定2~3週間分の人工流産の組み合わせで、ようやく感染の鎖が断ち切れた農場も少なくありません。発症の長引いている農場ではもう一度覚悟をし直して、思い切った感染循環を断ち切る対策にチャレンジしてはどうでしょうか。夏場であるという事、豚価が高い事が追い風になるはずです。

「ピッグジャーナル」(アニマル・メディア社発行)2015年05月号掲載

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