PEDパンデミックを振り返って
日清丸紅飼料(株)総合研究所 検査グループ 矢原芳博
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
年末の豚価は、最後まで記録的な高値を維持しましたが、今年はどのような推移になるのでしょうか。これらの市況には、PEDをはじめとした疾病の影響が大きく反映されていると思われますが、その疾病の今後の趨勢の見極めが極めて難しく、頭を悩ませられています。年の初めに、今年はどんな年になるのかをぼんやりと考えているわけですが、不確定要素が多くて、「ぼんやり」がいつまでたっても「ぼんやり」のままで、情けない限りです。
それにしても今回のPEDの動きについてもう一度振り返ってみると、米国での発生が止まらない状況が続いた後に、2013年秋に沖縄、茨城での報告がありましたが、この辺りまでは、「豚流行性下痢」の名前にもあるように、「エピデミック(流行)」という規模のものだったように思います。これが南九州に広まったころから、「パンデミック(いわゆる感染爆発)」の状態が始まりました。感染症(特にウイルス病)がパンデミックの状態になると、それまで言われてきた感染症の動態や症状、疾病の広がり方等々の経験値がことごとく覆され、制御が効かなくなる事を、我々は2010年の口蹄疫で、いやというほど思い知らされてきたのですが、今回のPEDでも、ある時点から、ウイルスが暴走を始めたとしか言いようのない感染拡大の仕方をしてしまいました。
数十年前、学生時代に学んだ公衆衛生学の記憶をたどれば、ある集団に病原体が侵入し、集団中の病原体濃度が一定値(閾値)を超えた時に、「パンデミック」が起きると教わりました。この閾値(いきち)は、その集団の個体数と密度に応じて大きくなったり小さくなったりするわけですが、いずれにしても感染症というものは、ある一線を越えると手が付けられなくなるほど広がり出して、「エピデミック」から「パンデミック」に進行する、というものです。今回のPED流行に関していえば、おそらくは「パンデミック」状態の末期に来ているのだと思われますが、何せ予想のつかない「パンデミック」ですから油断はできません。今回の教訓を踏まえたうえで、病原体を閾値に達しないようにする方法を考えていく必要があると思います。今年の大きな課題です。
また、一つの大きな「パンデミック」期が終了すると、病原体はどこかに消えてしまうか、あるいは「エンデミック(いわゆる地域常在化)」の状態に進むといわれています。この「エンデミック」も相当に厄介であり、現在PED感染農場で起きている「再発」、「ぶり返し」、あるいは症状の長引きなどがこれに当たるのだと思われます。現在、このような状況にある農場では、様々な対策が試されていると思いますが、なかなか決定打が見いだせていないのが現状かと思います。今年のもう一つの課題として、疾病を「エンデミック」に移行させない管理方法を考えていきたいと思います。
「ピッグジャーナル」(アニマル・メディア社発行)2015年01月号掲載