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PEDで考えるコロナウイルスの脅威

日清丸紅飼料(株)総合研究所 検査グループ 矢原芳博

今年もまた、あっという間に12月がやってきてしまいました。PEDに始まりPEDに終わった(というかまだ続いておりますが...)一年間でした。

このコーナーでも、今年は何回もPEDウイルスの意外な動きについて話題に取り上げましたが、過去の経験から得られたウイルスの性質について、ことごとく裏切られたような気がします。TGE、PEDはコロナウイルス属であり、豚のコロナウイルスの下痢は、一過性に広がるが、一定期間を経過すれば母豚群全体が抗体を持ち、長くても数か月あれば終息に向かう(はずだ。)というのが、今までの常識だったのが、もう半年以上もくすぶり続けている農場もあります。

さて、ヒトの世界はどうかといえば、インフルエンザウイルスの流行は少し早目の動きだそうで、ノロウイルスも冬場の感染拡大の機会を伺っています。アフリカではエボラウイルスが猛威を振るい、アフリカ以外の国々での発生の懸念が広がっています。公衆衛生学の発達によって、一時は、「人類は感染症との闘いに勝った!」と思えるような時期もあったのかもしれませんが、人間とウイルスの戦いは、新たな展開に入りつつあるように感じます。そういえば、2002年に発生したSARS(サーズ;重症急性呼吸器症候群)や2012年に発生したMARS(マーズ:中東呼吸器症候群)の原因もコロナウイルスです。微生物学者の意表を突いて感染拡大する様子は今回のPEDと共通性を感じてしまいます。さらに鶏の世界では伝染性胃腸炎(IB)という病気があり、現在でも大きな経済的被害をもたらす疾病の筆頭として警戒されています。IBウイルスは非常に遺伝子変異が激しく、タイプの違う株間での共通の免疫が出来にくいので、雛の間に何種類ものIBワクチンを接種しなければなりません。

このように我々は、日々ウイルス、とりわけコロナウイルスとの闘いを余儀なくされているわけです。そういえば養豚界最大の敵であるPRRSウイルスは、コロナウイルスではありませんが、同じニドウイルス目というグループに含まれ、やはり遺伝子変異の激しさで知られています。来年もコロナウイルス(とその親戚ウイルス)に悩まされそうですが、一矢でも報いることができるように頑張りたいと思います。

「ピッグジャーナル」(アニマル・メディア社発行)2014年12月号掲載

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