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PED対策における"馴致"

日清丸紅飼料(株)総合研究所 検査グループ 矢原芳博

夏本番の猛暑の中で、豚流行性下痢(PED)の新規発生農場は、各週で4~5件の発生に止まっておりますが、それでも7月20現在においても新規発生が完全になくなったわけではありません。またPED発生農場においては、PEDによると思われる下痢症状が終息することが無く、だらだらと3ヶ月以上も継続している農場も少なからず見られます。また数ヶ月間発生が見られなかった農場で、突如PEDの症状がぶり返すケースもあるようです。これらの現象は、たとえば18年前の南九州でのPED発生時には、あまり聞かなかった現象であり、症状が長引くことで経済的被害もじわじわと大きくなっており、不安が広がっています。

これらの症状の継続の原因の一つとして、母豚の獲得免疫のバラツキが考えられます。既にPED発生農場で、母豚の抗体価を調査したという情報が得られていますが、かなりの被害を受けた農場であっても、中和抗体レベルが低い母豚が散見される農場があるようです。あれだけの感染拡大のスピードと強さを持つPEDウイルスなのに、農場内での感染拡大のピークを終えた時点でも、充分な免疫を獲得できていない母豚がいると言うことが驚きですが、どうもこれが真実のようです。そうであれば、母豚には、全頭に強制的にでも強い感染を受けさせ、充分な免疫をつけさせる必要がありそうです。

いわゆる馴致(より正確に言えば強制的な人工感染)については、賛否両論あろうかと思いますが、他疾病の影響を極力排除した上で、行う必要性を感じています。

また、「うちは馴致をしたのに効かなかった。」と言う声もお聞きしますが、その際に使用した感染のための材料が適切ではなかった可能性があります。PEDウイルスが哺乳豚に感染した場合、速やかに腸管上皮でウイルス増殖が始まり、感染後の早い時期に絨毛が脱落してしまいます。感染力のある大量のウイルスが得られるのは、下痢発生後のごく初期の下痢便(あるいは腸管)に限られます。それ以降の下痢便は、いくら水様下痢であっても、生きたウイルスが入っていないため、母豚の感染源としては適当ではありません。このような注意点を全て満たした上で人工感染を行うためには、やはり経験を持った獣医師の関与の元に行う必要があります。また、発生が長引くので、闇雲に何回も人工感染を繰り返すのは、感染源を継続的に農場内に供給し続けることになるので、これもお勧めできません。止むを得ず人工感染を行う場合には、最適な材料を揃え、細心の注意を払いながら、一回で決める事が重要です。

発生が長引く事例が少なからず見られると言う事は、現場にPEDウイルスが排出されていると言うことで、この秋以降の新規発生農場の増加の可能性が高まるということでもあります。農場毎のバイオセキュリティは今後も引き続き、最高レベルを継続しなければなりません。

「ピッグジャーナル」(アニマル・メディア社発行)2014年08月号掲載

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