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豚で牛の病気のアカバネ病!

日清丸紅飼料(株)総合研究所 検査グループ 矢原芳博

豚流行性下痢(PED)については、まだ新規発生が見られるものの、その数は減少傾向が継続しています。今後の気温上昇に伴い、この傾向が継続する事が望まれますが、同時に今年秋以降に再び感染が増える可能性も充分考えられるため、バイオセキュリティの引き締めは引き続き継続して行きたいところです。

今月はPEDの話から離れ、死流産の話題をしたいと思います。平成23年に、広島県で養豚場でアカバネウイルスが原因と思われる死流産が発生したとの報告がありました(本田ら2013)。この報告を見た時には、珍しい症例とは思いましたが、極めて稀なケースであって、自分の関係する農場で遭遇するとは思ってもいませんでした。

しかし昨年12月、九州の当社関連農場で死産が散発しました。死産子豚には、脳欠損や四肢の屈曲、脊椎の湾曲など、牛で見られるアカバネ病の死産子牛の症状にそっくりの病変が見られましたので、家畜保健衛生所の先生にお願いして病性鑑定を実施して頂いたところ、病理組織病変、死産子豚の脳からのアカバネウイルスのPCRによる遺伝子検出、死産を起こした母豚の抗体保有などから、アカバネウイルスの感染が疑われる症例であるとのご連絡を頂きました。また、広島の事例は、他の農場でも起き得ることなのだなと感じていましたところ、さらに他の農場でも同様の発生があったという情報を得ることができました。アカバネウイルスによる豚の異常産について、今後もアンテナを張って情報収集に当たりたいと思います。幸い我々の遭遇した症例については、広島の症例ほどの発生頻度ではなく、いまのところ一過性で終わっていますし、このような症例が、頻繁に発生しているという事はないのだろうと思いますが、アカバネウイルスのように、牛だけの病気と思っていたウイルスが豚で発生する可能性があると言う事も頭の中に入れておかなければならないと感じました。

このように、ウイルスについて我々が分かっている事は、ほんの一部なのだと思い知らされます。PEDについても、なぜこのような広がり方をするのか、症状の激しい農場と軽度な農場において何が違うのか、再感染があるという報告もあるが果たして本当にPEDウイルスによる下痢が再発生するのか、等々...。自分たちは何も知らない、という認識の下に、謙虚な気持ちで現場で起きている事象を、丁寧に調べていく事が我々の責務だと再認識しました。

「ピッグジャーナル」(アニマル・メディア社発行)2014年06月号掲載

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