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日常の中の"異変"に気づく

日清丸紅飼料(株)総合研究所 検査グループ 矢原芳博

気がつけば一年の半分以上が過ぎております。時間の流れは加速する一方ですが(もちろん感じている自分の中だけの話なのですが、)そのなかで普通にいろいろな事が起きるので、ついて行くのが大変です。夏場の対策が遅れている農場の方も、そのように感じているのではないかと思います。まだ間に合いますから急ぎましょう。

ここのところ、総産子数は12頭台以上であるのに、離乳頭数は9頭前後であるという農場に、数件立て続けにお邪魔しました。分娩舎に入って母豚と哺乳豚を見ると、哺乳豚が母豚のおっぱいに吸い付いている腹が非常に少なく、一見して「あれ?」と感じます。このように農場にお邪魔して豚舎を見て回ると、問題を抱えている豚舎では、直感的に何か変だと気になるものです。その直感の後に、母豚が母乳を出していないとか、飼料を残しているとか、呼吸が荒い、とか具体的な異変が目に入ってきます。しかし、この直感というか異変というものは、その農場で日々働いている方には、意外と働かないものなのかもしれません。私が豚舎の中で、「ん?何かおかしいですよね?」と聞いても、「母豚に子豚が吸い付いていないですよね。」と聞いても、「そうかな?」と怪訝な顔をされることも、ままあります。結局、ひとつの農場は農場全体が飲水量不足で、母豚の飼料摂取量も上がらず、泌乳量もあがらないというパターンでしたし、別の農場でも分娩舎での母豚への給餌量に問題がありました。両農場ともに、生産成績については、それぞれが付けている野帳から遡って調べるしかなく、いつでも状況を確認する術を持っていませんでした。それぞれの農場の方々は、農場内で一生懸命に働いており、自農場の成績不振に悩んでおられ、何とかしたいと思っておられます。決して不真面目に管理をされているわけでも、あきらめているわけでもありませんでした。

このような農場で私が感じたのは3点。まずそのひとつは、自分の農場の「普通」はほかの農場ではどうなのか?を知る必要があるということです。そのためには、自分が他の農場に行って他の農場の状況を確認すること。(ただしこれは防疫上なかなか難しいかも知れません。)あるいは誰かを農場に入れて、状況を見てもらうこと。(入ってもらう相手の防疫措置をこちらから指定してあげる必要があります。)いずれにしても、他人の目から見た自農場の状況を再確認する事です。

2点目は、自農場の成績を客観的に評価するために、データをきっちりと取ることです。成績を十分に追いかけるためには、ノートの記帳だけでは無理です。パソコンを使ってリアルタイムにデータを把握することがどうしても求められます。

最後に、養豚をしている仲間と、常に情報交換を行うこと。豚の話をしなくても、一緒にお酒を飲むだけでも気分も晴れます。何気ない一言がヒントになることもあります。煮詰まった状況を打破するきっかけは、意外と酒の上での冗談かもしれません。

「ピッグジャーナル」(アニマル・メディア社発行)2013年07月号掲載

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