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レプトスピラが関与した母豚事故

日清丸紅飼料(株)総合研究所 検査グループ 矢原芳博

先月号で気温差の話を書きましたが、その一ヵ月後にはすでに夏のような暑さが到来し、あっという間に梅雨に入ってしまいました。気候は急変するものであると、最初から構えておかなければならないようです。気候の変化が大きいためなのか分かりませんが、疾病の発生の仕方も予想外の展開に悩まされています。ここ最近レプトスピラが関与しているのではないかと思われるいくつかの症例に遭遇していますが、過去にこのコーナーでもご紹介したような種付け1ヵ月後頃のおりものを伴う不受胎、あるいは早期の流産だけでなく、もともとの典型的な症状である妊娠後期の流産もあり、更には母豚の死亡なども経験しました。これらの症状は過去であれば原因不明で済まされてしまったケースも多かったのかもしれませんが、遺伝子検査(PCR)の発達によって原因が突き止められるケースも増えています。また、このようなケースで複数の病原体のPCRを同時に行う事も多いのですが、混合感染例も少なくありません。たとえばインフルエンザウイルスとレプトスピラの混合感染の場合には、それぞれの典型的な症状がミックスされるというよりは、急に具合が悪くなって死亡に至るため、その症状と経過だけでは、どのような病気が組み合わされているのかが予想できません。PRRSの場合も他の病原体との混合感染によって、実に様々な症状を示すため、単にPRRSが感染していますというだけではなく、それにプラスされる病原体を明らかにしないとなかなか解決策に到達できません。ですから検査費用は少々高くなっても、タイムリーな検体が取れたときには、幅広い病原体を検査することが非常に重要です。遺伝子検査を用いる事で、同時により多くの病原体の検出をする事が可能になってきています。検査ラボの中で、出来上がってくる検査結果を見ながら、「へえー、そうだったのか!」とびっくりする事がたびたび起きています。家畜の疾病検査ラボに勤め始めて27年になり、もうそろそろ過去の経験だけで現場で起きている出来事を理解できるようになりたいものですが、世の中そう甘くはありません。今後もまだまだ病気に振り回される日々が続きそうです。

「ピッグジャーナル」(アニマル・メディア社発行)2013年06月号掲載

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