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身の周りの細菌のリスク

日清丸紅飼料(株)総合研究所 検査グループ 矢原芳博

唐突に春がやってきました。とはいっても北東北、北海道はまだ雪の中だと思います。毎日その日ごとに、違う季節の管理を行わざるを得ない季節です。ひょっとすると「日ごと」ではなく、「時間ごと」の管理の変化が必要なのかもしれません。本当に気の抜けない時期ですが、これからの豚価の行方に少し期待をしながらがんばりましょう。

さて、このような時期に、環境の変化に対して豚が過敏に反応してしまう農場と、意外と農場の環境調節はラフなのに豚は鷹揚にゆったりとしていて、崩れにくい農場があるような気がします。「何が違うの?」といつも疑問に思っています。その違いに何か養豚の飼育管理の勘所があるのではないかと思うのですが、「これだ!」というような明快な答えは見出せません。

話はガラッと変わって、今年も花粉症の季節がやってきました。年に1回、花粉症のネタを書かないと気が済みません。しかし今年は花粉症の前に、年末から奥歯が痛み出してしまいました。てっきり親知らずが虫歯になったと思い込んで歯医者に行ったところ、なんと歯茎の炎症であると診断されました。かれこれ7、8年も歯医者に行ってない私に対して、歯医者さんは、たいそう常識外れの人間を諭すように、「歯垢を定期的に綺麗にしていかないと、歯肉炎で歯がみんな抜けてしまいますよ。」と教えてくれました。歯垢には様々な雑菌が含まれていますが、このような雑菌の中には、内毒素という毒素を産生する菌もあり、微量ながら内毒素がいつも体内を巡っている状態がすぐに想像できました。それらの雑菌のそれぞれには直接病気を起こすほどの病原性はないかもしれませんが、ちょっとずつ毒素を出しながら、それが絶えず体内を巡る事で身体全体に影響を及ぼす事も考えられるのではないでしょうか。

私の口の中のような事が、養豚場の豚達に起きていないだろうかと考えてみます。豚の場合は、口の中の話だけではなく、たとえば体表であるとか、腸管の中とか、脚にできている膿瘍であるとか、病原性を持つような名前の良く知られた菌でなくとも、常時それらの菌が豚の身体についている事で何らかの影響を受けている可能性はあるのではないでしょうか。身体にそのような状況の有る無しが、環境変化に「敏感な」豚と「鈍感な」豚の違いになっている事も考えられるのではないでしょうか。私の場合、歯医者さんに通いながら、急いで電動歯ブラシを買い込んで、遅ればせながら歯磨きを開始しましたが、これから養豚場にお邪魔した時には、豚舎の中や豚の身体のどこかに「磨き残し」はないか、常時豚に悪影響を与えるような小さなポイントは無いか、改めて細かくチェックをしていこうと考えています。豚にとっての快適を探る作業は、一筋縄ではいかないようです。

「ピッグジャーナル」(アニマル・メディア社発行)2013年03月号掲載

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