オレたちが育てたマダイを多くの人に食べてもらいたい事業規模・販路拡大に果敢に取り組む沼津のマダイ生産者
水産生産者
静岡県沼津市の魚類養殖は最盛期には100近い経営体があったといわれ、愛媛、高知と並んで全国的にも有名でした。しかし、魚の消費減少に伴って就業人口も年々減り、2015年の経営体は20を切るまでに激減しました。こうしたなかで「美味しいマダイを育て多くの人に食べてもらいたい」と意気込み、果敢に規模拡大や販路の拡大に取り組んでいらっしゃるのが「株式会社マルセイ水産」と「有限会社海晴丸」です。
マルセイ水産生簀
株式会社マルセイ水産
市場衰退のなかでも「売り先」の開拓と自社販売に力を注ぐ
株式会社マルセイ水産は、現在の社長・真野幸正氏のお父様が創業し、今年で50年を超える歴史があります。真野社長は大学卒業後に家業を継ぎ33年目になりますが、「そのころはこのあたりの海がすべて生簀で埋まっていました」と言うほど、当時は真珠養殖と魚類養殖、定置網が盛んでした。しかし、沼津では真珠養殖は続かず、さらに魚類の販売先の減少に伴い養殖業者が激減しました。
「継いだときは、まさかこうなるとは思わなかった」と振り返る真野社長でしたが、その時養殖魚をハマチからマダイに切り変え「売り先が大切だ」と生き残りをかけたのです。
元々マルセイ水産の主な出荷先は東京でしたが、販売先を増やすために真野社長が開拓したのが香川県漁業協同組合連合会(以下、香川県漁連)でした。魚介類の取扱高で日本有数の規模を誇る香川県漁連との取引は規模が大きく、真野社長は同業者で養殖場の近い海晴丸と共同で出荷することを決断しました。
それから約20年が経ち、マルセイ水産ではマダイを含めた養殖魚全体のうち7〜8割を香川県漁連へ出荷しています。安定した周年供給が可能なので、仕入れ先にとっても販売計画の目途が立ち、良い関係を築き上げています。
マルセイ水産のみなさん
真野社長
今では飼料メーカーを全面的に信頼
真野社長は飼料について「品質にこだわり小売業者とも話し合ってポリフェノールを配合した飼料を使用しています。今の餌はやっぱりいいですね。魚の生臭さがなくなり美味しくなりました。だから今ではメーカーさんを全面的に信頼しています」と言いながらも、「マダイ養殖の難しいところは歩留まりです。病気による歩留まりを改善できる飼料をメーカーさんに期待したいですね」と要望されています。
ポリフェノール入り飼料
養殖マダイ専門の店をオープン
真野社長は、養殖業にとどまらず2015年に沼津市内にマダイ専門の料理店「眞鯛」をオープンさせました。これも独自の消費拡大策の一つで、「自分で育てたマダイを料理して、直接消費者の口に届けたい」という考えです。さらに「自分が育てた魚の値段を自分で決めることができることも張り合いがある」と言います。店は息子さんに任せて、ご自分は養殖を続け、多くの消費者に自分が育てた魚を食べてもらいたいと願っています。
有限会社海晴丸
みかん農家から沼津で最大規模のマダイ養殖業者に
有限会社海晴丸の社長・大木晴夫氏のご実家はみかんの専業農家ですが、大木社長は大の海好きの子どもでした。小学校入学前から近所のお年寄りの櫓で漕ぐ船に乗せてもらい、刺し網漁業の漁場に行っていたほどでした。水産高校に通いながら週末は養殖業も始めた家業を手伝っていました。
有限会社海晴丸の養殖業は、年々拡大を遂げました。一番後発で始めたにもかかわらず同社長の努力が実り、今では生簀の数は57を数え沼津では最も大きく、全国でも中堅規模と言われるまで発展しました。「魚が好きだということを原動力にしてきましたが、一生懸命やっていれば、なんとかなるんだと思いました」と振り返ります。
有限会社海晴丸の販売先は香川県漁連が約9割を占めます。香川県漁連との取引は約20年、マダイの周年出荷は本格的に始めて12、13年になります。周年出荷は毎週3回1年中、盆正月も途切れることがないといいますから、まさに安定供給を実証しています。
海晴丸のみなさん
大木社長
地元の名物みかんを混ぜ合わせ魚のブランド化を目指す
「魚の気持ちになって考えてしまう」と言う大木社長は、マダイを早く育てて早く売りたい、とはあまり考えていないそうです。「餌は2年魚、3年魚によって種類も違えば量も違うわけです。だから私は、マダイの成長によってサイズの異なる餌を混合して与えています。それも成長するのに合わせて1週間から10日くらいで都度配合率を変えていく。これによって大きさの不揃いを少なくしようとしているんです」と細やかな気遣いを見せます。このような給餌方法は他ではあまりないそうです。
「このノウハウは水産高校で学びましたが、57台もある生簀ごとにマダイの成長に合わせて餌を変えていくのは大変です。みんな(社員)は覚えてよくやってくれているね」と言う大木社長ですが、「魚の気持ちになって考える」方針が徹底されているからでしょう。
飼料を船に積んでいるところ
海晴丸 給餌風景
地元の名物みかんを混ぜ合わせ、魚のブランド化を目指す
沼津市西浦は昔からみかん栽培が盛んで、そのみかんは「寿太郎みかん」というブランドとして沼津の名産品となっています。大木社長はそこに目を付け、餌に寿太郎みかんを混ぜ合わせる「かんきつ魚」に取り組み始め、テストを繰り返しています。「寿太郎みかんは甘みが強く特徴のある味なんです。なんといってもおめでたい名前がいい。だから『寿太郎マダイ』というブランドを考えています」と楽しそうに語ります。
現在、試行錯誤を繰り返していますが、「日清丸紅飼料さんの水産研究所でもいろいろテストもしました。生産者が作ったものを消費者が評価し、それを買ってもらえるようになりたい」と言います。独自の餌の開発のために新たに造粒機を導入する予定もあり、大木社長は夢の「寿太郎マダイ」の実現に向けて奮闘中です。